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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)2207号 判決 1980年8月27日

控訴人

大石精機株式会社

右代表者

大石章

右訴訟代理人

城田富雄

被控訴人

飯田みよ子

右訴訟代理人

藤森克美

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

一  <省略>

二  当事者双方の主張並びに証拠関係は、次に附加、訂正するほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  請求の原因四項を次のとおり改める。

「以上のとおりであつて、本件土地の当初の賃料月一〇万円は、控訴人が親族間の情誼上被控訴人とその家族の生計の援助を目的とするとともに、被控訴人が将来控訴人のため本件土地をもつて物上保証をすることを約束したため、これを承諾したのであるが、被控訴人は、前記のように右の物上保証を拒絶しただけではなく、その結果控訴人が陥つた金策上の苦境に乗じて、本件土地の賃料を適正額月八万四三〇〇円をはるかに超える月一五万円とすることを控訴人が承諾することを余儀なくさせたものであつて、右の親族間の情誼その他約定賃料額を相当とする特別事情は、すべて被控訴人の背信行為によつて覆滅されるにいたつたものである。そして、右のように賃料決定の基礎事情が変更し、約定による賃料をそのまま維持することを公平の原則上是認することができなくなつたときは、これを適正額に減額することを請求し得ることは、法の一般理念に照らして当然である。よつて、控訴人は被控訴人に対し、本件の訴状をもつて昭和五二年八月七日以降本件土地の賃料を月八万四三〇〇円に減額請求する意思表示をしたから、本件土地の賃料が右のとおりであることの確認を求める。

右の減額請求が認められないとすれば、本件土地の賃料を一五万円と定めた合意のうち右月八万四三〇〇円を超える部分は、前記のように控訴人の苦境に乗じてなされた被控訴人の暴利行為であつて民法九〇条の規定に違反して無効であるから、右同様の確認を求める。」

2  証拠関係<省略>

理由

一請求の原因一項の事実は、当事者間に争いがない。

二そこで、まず控訴人の事情変更の主張について検討する。請求の原因三項(1)の事実は当事者間に争いがなく、この事実と当審証人柿沼成享の証言並びに原審における控訴会社代表者尋問の結果を総合すれば、本件土地の当初の賃料月一〇万円は、被控訴人とその家族の生計を援助しようとする控訴会社代表者大石章の意図に基づく同人の自発的な申出によつて決定されたことが認められるけれども、右の決定に当り大石章のこの意図が明示され、それが合意の内容とされたと認めるに足る証拠もないし、また被控訴人が本件土地をもつて控訴人のため物上保証をする(その約束が成立したかどうかは暫く措く。)ことが右賃料決定の条件になつていたと認めるに足る証拠もない。そうして見ると、控訴人主張のその余の事実のすべてが認められたとしても賃料を月一〇万円と定めた事情に変更が生じたとはいいがたいし、更に、控訴人が事情変更を基礎づける事実として主張するすべてが、本件土地の賃料が月一五万円と約定されるまでの間に生じたものであることは、その主張自体に照らして明らかであり、右賃料決定後に生じた事情については、何らの主張もないのであるから、この主張は、すでに他の点の判断をまつまでもなく、失当たるをまぬかれない。

三次に控訴人の暴利行為の主張について検討する。

原審における鑑定の結果によれば、昭和五二年八月三日から昭和五三年八月二日までの間における一時金の授受を伴わない本件土地の賃料額は月八万四三〇〇円が相当であると認められ、右認定に反する証拠はない。従つて、前記のように昭和五〇年七月一日に約定された本件土地の賃料月一五万円は、右の鑑定基準時において前記相当額の約1.8倍に達するし、右事実と前記認定の本件土地の当初の賃料が決定された経緯とを考え合わせれば、昭和五〇年五月一日に約定された前記月一〇万円の賃料が適正額を超えるものであつたことは推認にかたくないところである。しかしながら右の月一〇万円の賃料が控訴会社代表者の自発的な申出によつて約定されたものであることは前記認定のとおりであつて、これが暴利行為であるとすることは、禁反言の原則に反して許されないところであるし、月一五万円の賃料が適正賃料の約1.8倍に達するからといつて、右の賃料の額並びに倍率から見て、それだけで、右賃料額の合意のうち、前記約定の月一〇万円を超える部分が暴利行為になるとはいえないことも明らかである。

<証拠>を総合すれば、本件土地の賃料が月一五万円と約定されるにいたつたのは、当初被控訴人から本件土地の賃料を月三〇万円に値上げすることが提案され、これについて当事者間で折衝が行われたが、控訴人において賃料を一五万円とすることを承諾しなければ、控訴人が本件土地上の所有建物につき担保権を設定するについて被控訴人が土地賃貸人として承諾を与えないことが明らかになつたことによるものであることが認められる。しかしながら、そうだからといつて、控訴人がそのためその所有建物に敷地の賃借権付の担保権を設定する利益を得たことは否定できないし、前記控訴会社代表者尋問の結果によれば、控訴人は被控訴人に対し、その後約二年間にわたり異議を留めず月一五万円の右賃料を支払つたが、昭和五二年六月に被控訴人から重ねて賃料の増額を要求されるにいたつて、はじめて本訴に及んだ事実が認められるのであつて、この事実によれば、本件土地の賃料を月一五万円と約定するについての経緯が前記認定のとおりであつたからといつて、これをもつて暴利行為であることを否定した前記認定判断の妨げとすることはできない。従つて、この主張も採用することができない。

四以上のとおりであつて、控訴人の本訴請求は失当として棄却をまぬがれないものであり、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、民訴法九五条、八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(石川義夫 寺澤光子 原島克己)

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